研究内容

!もっと知りたい人への日本語総説!

 *大谷美沙都 (2017) 植物の器官再生におけるRNA代謝制御の役割. 生物科学 68: 240–249

大谷美沙都 (2017) pre-mRNA スプライシングが制御する植物の発生・環境応答・器官再生. 植物科学最前線 8: 80–98

1)植物細胞の分化全能性発現を支える分子基盤の解明

 

植物細胞の特徴のひとつとして、分化全能性(ひとつの細胞が分化状態を脱して細胞分裂・再分化し、ありとあらゆる種類の細胞に分化しうる性質)が挙げられます。分化全能性の端的な顕在化例が組織培養による器官再生です。器官再生は通常時の発生プログラムの流用によることが分かってきています。

  私たちはこれまで、pre-mRNAスプライシングやRNA品質管理といったRNA制御異常が器官再生不全を引き起こすことを明らかにしてきました。これは、発生プログラムの柔軟な運用を支える基盤としてのRNA代謝の重要性を示唆しています。現在、mRNAに埋め込まれた自身の代謝のための指令書が、どのように細胞の分裂・分化状態のコントロールにつながるのか、またRNA代謝制御は遺伝子発現制御にどう波及するのか、を明らかにしようとしています。さらには得られた知見を元に、効率的なクローン増殖技術の開発を進めています。


2)植物の環境応答におけるバイオポリマーダイナミクスの役割の解明

移動性の低い植物は、生育場所の環境要因(温度、光、栄養など)の変化に常に応答し、生命機能の恒常性を維持していると考えられます。

  本研究室では、遺伝子発現制御の要であるRNAや、外的環境に対する最初のバリアーである植物細胞壁に注目し、植物環境応答におけるこれらバイオポリマー(RNAや細胞壁を構成するセルロース、ヘミセルロース、リグニン、ペクチンなど)の代謝制御の役割を明らかにしています。これまでに、RNAやペクチンといった分子が環境因子を直接的に感知・応答するセンサーかつリアクターとして機能しうることを見出してきました。現在、その詳細のさらなる解明に挑んでいます。また、これらバイオポリマーの改変と操作による植物環境応答の人工制御も将来的課題の一つです。

!もっと知りたい人への日本語総説!

大谷美沙都 (2017) pre-mRNA スプライシングが制御する植物の発生・環境応答・器官再生. 植物科学最前線 8: 80–98

秋吉信宏, 出村拓, 大谷美沙都 (2018) 植物の通道細胞進化を転写因子から読み解く. 化学と生物 56: 353–363


!もっと知りたい人への日本語総説!

大谷美沙都, 出村拓 (2016) NAC転写因子VNSファミリーが語る陸上植物の通水細胞進化の物語. 植物科学最前線 7: 87

*秋吉信宏, 出村拓, 大谷美沙都 (2018) 植物の通道細胞進化を転写因子から読み解く. 化学と生物 56: 353–363

大谷美沙都 (2021) オミクス解析から解き明かす木質形成機構. アグリバイオ (2021年7月臨時増刊号) 5: 13-17

3)木質バイオマス生合成の分子的理解と応用

近年の環境問題の深刻化は、私たちの社会活動の在り方について、抜本的見直しを強く要求しています。持続可能な社会システムの構築に向けて、本研究室では、木質バイオマス(木化した二次細胞壁に含まれる細胞壁ポリマー)の生合成の分子的理解と応用技術の開発を進めています。

  これまでに、陸上植物に保存された二次細胞壁生合成の転写制御ネットワーク(VNS-MYBネットワーク)を明らかにしてきました。さらに、この転写制御ネットワークは実際にはさまざまな遺伝子転写後調節によって、植物種ごと・環境条件ごと・発生段階ごとに運用されていることも分かってきています。現在、オミクス解析による二次細胞壁生合成のシステムとしての理解と、二次細胞壁の進化的起源の探求を鋭意推進中です。得られた分子的知見から、さらには、木質バイオマスの利活用性向上を後押しする新たな分子育種ターゲットを見出すことも目標です。


研究紹介動画(1)

東京大学 新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 ホームページからもリンクあり

 

<最新>2021年5月15日(土)に開催した専攻入試委員会で、ラボ紹介フラッシュトークを行いました。

(左の画像をクリックすると動画ファイルに飛べます)

研究紹介動画(2)

東京大学 新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 ホームページからもリンクあり

 

2019年4月、研究室発足時の研究紹介動画です。

(左の画像をクリックすると動画ファイルに飛べます)

当研究室の研究指導方針等について

[当研究を始めるために必要な知識・技術について]

生物学を修めているとスムーズに研究を始めることができますが、基本的にバックグランドは問いません。

なによりも生命機能の分子制御に興味をもち、その仕組みを深く掘り下げる意欲のある方を歓迎します。

 

[研究室の指導方針]

研究指導の一環として、定期的な論文輪読会(いわゆるジャーナルクラブ)、研究進捗報告会(プログレスセミナー)を行います。

自分の生涯の武器となるスキルや、どんなことに情熱を見いだせるかを一緒に見つけ出せるよう、みなさんの個性を尊重しながら、知識や研究データにもとづいた論理的思考の実践的実装に重点をおいた指導を行います。また、積極的な国際共同研究や異分野融合研究を通したコミュニケーション能力の育成を通して、国際的に多様な場で活躍できる人材の育成を目指します。

 

[この研究で身につく技術]

当研究室では、分子〜個体までマルチスケールの材料を扱い、分子生物学や植物生理学に軸足を置きつつ、材料科学や情報科学、計測科学にまたがる解析手法を用います。このため、遺伝子操作や細胞操作技術、データ解析技術、各種計測技術など幅広い技術を習得するチャンスがあります。

得意技を伸ばすのか、新規技術習得を優先するのか、一緒に考えながら研究を進めましょう。

 

[これまでの指導学生の就職先実績]

これまでに研究指導した学生さん(博士号取得者を含む)は、醸造系会社、食品系総合商社、医療用機器開発メーカー、繊維系製造業、染織関連会社、プラスチック系製造業、治験関連会社、研究開発試薬会社、などに就職しています。

しっかり自分の研究に向き合える学生さんほど、しっかり就職活動を進め、結果的に希望通りの就職を決められるというのが、私たちの経験上の印象です。せっかくの大学院生時代、悔いのないように過ごして欲しいと思っています。